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73回タイトル

タマカタカイガラムシ

お盆を過ぎるとクマゼミの大合唱も日を追って小さくなり、移動を始めたイチモンジセセリが地表を忙しなく飛ぶ姿を目にし出すと、この暑い夏も終わりが近いことを感じます。

今回はタマカタカイガラムシについてです。
メジロたちが餌にしていたと思われる虫です。
春未だ遠い如月の梅林。早咲の梅よりも気になったのは、幹に付いているブツブツ。
直径3〜4㎜の赤褐色の粒、梅仁丹の様にも見えます。それがタマカタカイガラムシです。
別の枝には1㎜程の虫が付いています、これも同じ虫です(後になって分かったのですが、雌成虫の死骸と越冬2齢幼虫です) 。
面白いのは、この虫の付いている場所。横に伸びた枝の下側や樹皮の割れ目に着いていることが多く、日光を避けていることが窺えます。
カイガラムシと言えば園芸好きの方なら馴染みがあるでしょう。実はれっきとした昆虫なんです。でも昆虫のイメージとは随分異なります。翅は無いし、足らしきものも見当たらないし、何よりも動く気配ですら無いのですから。
カイガラムシは植物の葉や枝、幹、果実、種によっては根に取り付いて口吻(こうふん)で吸汁して生活しています。同様に針状構造の口器を持つものにセミやカメムシ、アメンボ、ウンカ、アブラムシがいます。分類上はこの仲間でカメムシ目(半翅目)を構成しています。
日本には12科のカイガラムシの存在が明らかになっていて『日本原色カイガラムシ図鑑』(全国農村教育協会)には400種が記載されています。
《既に絶版になっていてオークションに5万円で出品されている。元値は5千円だったのに・・・》
実際は少なくとも700〜800種類は存在していると推測されているようです。タマカタカイガラムシはカタカイガラムシ科に属しており、同科にはロウムシと呼ばれるカイガラムシがいます。

3月、桜が咲く頃に変化が出ます。越冬していた幼虫は樹液を盛んに吸い始めます。
写真は3齢になった未成熟♀と思われます。2㎜程になっています。ドーム状の盛り上がりに付いている水滴はカイガラムシの排泄物です。所謂オシッコでしょう。
カイガラムシは吸収した樹液の中の必要成分を取り込み過剰な水分を肛門から排出します。同時に体液に入った養分のうち余分なものを出します。この排出物は甘く透明で糖分が数%含まれているとのことです。「甘露」と呼ばれ、蟻が集まることがあります。

4月後半、桜の枝の虫は更に成長して球形になっています。甘露の量も増えています。この虫の特徴である赤褐色の外殻を作った♀成虫です。
ところで、♂については全く触れていません。と言うのも桜と梅林では♂を見つけることが出来なかったからです。多くのカイガラムシの場合♂♀では容姿が異なり、♂は蝿の様な姿をしていて寿命が極めて短いらしいのです。羽化してから僅か2〜3日、長くても1週間程度とか。交尾のためだけに出現するようなものです。時期を逃すとまず見つけられない。この虫は年1回の発生ですから尚更です。
弁解になりますが、私だってバーダーの端くれ、双眼鏡も一応は首にぶら下げてます。探鳥や探蝶が好きで合間に興味の湧いたものを観察している程度です。でも、ちょっと変な奴かな?
その変な所が気に入られスタッフに勧誘されたのでしょうが…

話を元に戻しましょう。
4月20日、場所が変わって愛の森にある梅。その幹には夥しいタマカタカイガラムシが。未成熟♀のコロニーです。 外殻ができていないので背部の紋が鮮明です。体形も未だドーム状です。 その中に混じって白色の楕円形の粒、更に有翅の虫が見えるじゃないですか。
白色の粒は♂の繭、有翅の虫は♂成虫です。♂は越冬幼虫から前蛹・蛹と変化し、その時に繭を形成するのです。♂を見ると、成る程昆虫であること納得できますよね。

翌週28日には多数の♂成虫と羽化直前の繭が観察でき、この頃が羽化のピークと推測されます。
5月4日には♂成虫の姿は無く、繭は全て抜け殻になっていました。♀は成長し3㎜の球状になり外殻を形成し始めています。表面のぬめり感は甘露のせいです。下草にも滴となって落ちた甘露でテカっています。
♂成虫が姿を消したと言うことは既に交尾を済ませいる筈です。つまり、♀は外殻を形成していない未成熟の状態で交尾をしているのでしょう。そして交尾10日程で卵を産むようです。産むと言ってもこの虫は動かないのですから殻の中に卵を抱え込む形になります。
産卵は数百個、直径0.3mm程の大きさとは言え殻の内側は卵で満たされて卵と置き変わる様に母虫は終焉を迎えるのです。母虫が作った殻は卵を守るシェルターそのものなのです。その頃の様子がこの写真です。甘露を出している痕跡は見当たりません。生命感は消えてしまっています。

約1ヶ月の時を経て孵化が始まります。0.5㎜程の橙色を帯びたダニ状の虫がシェルターから這い出して来るというのです。初めは葉脈等の柔らかい部分で吸汁し落葉する前には幹や枝に移動して固着してしまうと言います。タマカタカイガラムシが動けるのは♂成虫を除いてこの時だけなのです。

そもそもメジロが啄む様子を観ていて横道に逸れてしまったのですが、変わった生き物がいるのだと感心させられられます。♂成虫は昆虫らしいのに♀はそうではない。つまり、♂は変態するのに♀はしないこと。図鑑に載っているのは♀成虫にも拘わらず、それをその虫の実像だと認識してしまっていたこと。
生き物は面白い、知らないことはまだまだあるのですね。

〈参考文献〉
カイガラムシ おもしろ生態とかしこい防ぎ方   農山漁村文化協会
庭木の病気と害虫 見分け方と防ぎ方       農山漁村文化協会
樹木別でわかる病害虫全科            誠文堂 新光社

 

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